ポルシェ987ボクスターを検討する貴方(貴女)へ

以前、ポルシェオーナーになるチャンスとして987ボクスターをご紹介したことがあります。お好きな方はもともとの設計を尊重する左ハンドル、運転を楽しみたい方はマニュアルを選ぶ傾向があり、リセールを重視するとこの組み合わせ(左ハンドルのマニュアル車)が最強でもあり、買値も高いのですが、もう少しマイルドに楽しみたい方は右ハンドルのATとなるでしょう。そもそもミッドシップレイアウトに水平対向6気筒ですから、こちらでも十分楽しめる車かと思います。各ペダルの配置やその他レイアウトなど、多少の無理強い感はあるかもしれませんが、日本の公道を左ハンドルで走ることとの天秤ですね。

さて、ここでお伝えしたいのが、987ボクスターと呼ばれる2代目ボクスター(2005年〜2012年)でも、前期(987.1 / 2005〜2008)と後期(987.2 / 2009〜2012)があります。外観はあまり変わらず、走行中では分からない程度ですが、走行性能に大きな違いがあります。ここではそれぞれ”ボクスター(素のボクスター)”と”ボクスターS”がありますが、”素のボクスター”のスペックで紹介させていただきます。

走行性能を大きく左右させる要素として、「エンジン」と「ミッション」がありますが、外観のほとんど変わらない前期後期のマイナーチェンジですが、この両方が大きく変わっています。

エンジンの変化

まずはエンジンについて。前期(M97)2.7Lだったのに対し、後期(9A1)2.9Lとサイズアップ。水平対向6気筒であることは変わりませんが、単なる改良版ではなく、根本からかなり違います。

前期(M97)の2.7Lは、1990年代に開発されたM96系エンジンの流れを汲むM97エンジンで、

  • 軽量化
  • 大量生産
  • コスト低減
  • 水冷化

を目的として開発されており、当時としてはかなり先進的でした。流石に今の目で見ると設計にはまだ“昔のポルシェらしさ”が強く残っていて、

  • メカノイズが多い
  • 振動感が少しある
  • 回転がやや重い
  • 金属感が強い

という特徴があり、エンジンが「機械として動いている感覚」がかなり濃いです。この「感覚」を好きな方も多くいらっしゃいます。

ただし注意点としては、IMSの故障やシリンダーの損傷などが懸念されます。IMSについては、ポルシェがサービスキャンペーンとして平成25年頃に無料修理または交換を行なっていましたので、ディーラー整備の車両はほぼ解決していると考えて良いでしょう。シリンダーの損傷については、構造上オイルが届きにくいシリンダーがあり、その内壁に傷が入る、というものです。これが出てしまうと修理はかなり厳しそうです。シリンダーの修理、補強などでも100万円前後は覚悟が必要です。

ですが、こちらもほんの一部でしょう。リスクを調べるとキリがありません。一般的にオイル管理や暖気運転などしっかりされていた車両、特にすのモデルであれば確率は非常に低いもので、限りなく「0」に近いようです。Web検索ではよく挙げられる注意点ですが、実際はそんなに心配しなくていいようですね。


一方、後期(9A1)の2.9Lは、前期(M97)を0.2L拡大したわけではなく、根本的にエンジン構造が見直されています。特に大きいのが:

  • クランクケース剛性向上
  • 潤滑改善
  • フリクション低減    です。

その結果、かなり滑らかで軽快になり、前期の2.7が:「少し荒々しいスポーツエンジン」だとすると、

後期の2.9は「洗練された高回転NAエンジン」という感じです。


回転フィールの違いはかなり大きいです。

前期(M97)の2.7は、アクセルを踏むと、少し手応え(重さ?)を感じながら回転が盛り上がるという感じです。

対して後期(9A1)の2.9は、スッと回り抵抗感が少なく、回転が軽い感じで、特に4000rpm以上で差が分かりやすいです。


音も違います。

前期(M97)は機械的な音が混じっており、どこか空冷っぽい、味のある音がします。

それに比べると後期(9A1)は、澄んだ滑らかな音、という感じです。


それに伴って、振動もかなり違います。前期(M97)のアイドリングは、少しドコドコ感があり、それも“味”を感じさせてくてます。

一方で後期(9A1)はかなり滑らかになっています。こちらは完成度の高さを感じやすいです。


年式が新しくなるわけですから、このような進化は自然な流れですが、外装の見た目は変化が少ないことと、エンジンも「水平対向6気筒」ということは変わらないことからくるギャップが、根本から変わったエンジンの進化を大きく感じさせるのかもしれません。

ミッションの変化(AT)

前期(ティプトロニックS)の特徴

ティプトロニックSは、一般的に使われるトルクコンバーター式ATをベースにした変速機です。発進時はトルクコンバーターがエンジンの力をオイルを介して伝えるため、非常に滑らかで扱いやすく、渋滞や街乗りでは快適です。その一方で、アクセルを踏んでから加速が始まるまでにわずかなタイムラグがあり、シフトチェンジにも少し時間がかかります。スポーツ走行では、ドライバーの操作に対して一呼吸遅れて反応する感覚があり、現代のスポーツカーとしてはやや古さを感じます。

フィーリングとしては「上質なGTカー」に近く、エンジンの力を穏やかに伝えながら走るタイプです。変速時には回転数が一旦落ち着き、加速も少し途切れるため、スムーズさを重視する人には好印象ですが、ダイレクト感やスポーティさを求める人には物足りなく感じることがあります。一方で、2速発進かつ5段ですので、一つ一つのギアを引っ張る時間が長く、一般道を快適に加速するには十分すぎるほどの加速性能と心地良いフィーリングを与えてくれます。加えて耐久性は非常に高く、長距離・長期間の使用に向いているのも大きな特徴です。


後期(PDK)の特徴

PDKはポルシェがスポーツ走行を前提に開発したデュアルクラッチ式トランスミッションです。内部には奇数段用と偶数段用の2つのクラッチがあり、現在使っているギアとは別に次のギアをあらかじめ準備しておくことで、瞬時に変速できます。そのため、アクセルを踏んだ瞬間から加速が始まり、シフトチェンジ中も駆動力がほとんど途切れません。

フィーリングは「AT」というより「熟練ドライバーがMTを操作している」感覚に近く、アクセル操作に対する反応が非常に鋭いのが特徴です。ワインディングではシフトダウンが素早く、コーナー進入時に適切なギアを即座に選択してくれるため、車との一体感が強く感じられます。一方で、極低速ではクラッチを使う構造上、ティプトロニックほど滑らかではなく、少しMT車のような半クラッチ感や軽いギクシャク感を感じることがあります。

総じてPDKは、スポーツカーとしての性能と日常の使いやすさを高いレベルで両立したミッションです。987後期の評価が高い理由のひとつであり、「自然吸気エンジンと油圧ステアリングのアナログな魅力を残しながら、変速性能だけは現代的」という独特の価値を持っています。特に987後期2.9PDKは、速さだけでなく運転する楽しさを味わえる組み合わせとして、多くのオーナーから支持されています。

オーナーレビューより

前期のティプトロニックSと後期のPDKを乗り比べたオーナーの声をまとめると、興味深いことに、最も多い意見は「エンジンの違いよりミッションの違いの方が大きい」というものです。

ティプトロニックSについては、「街乗りでは非常に滑らかで快適」「渋滞ではこちらの方が楽」という評価が多く見られます。発進やクリープは自然で、高級セダンのような上質さがある一方、「アクセルを踏んでから加速するまでに少し間がある」「パドル操作に対する反応がワンテンポ遅い」と感じる人も少なくありません。特にワインディングでは、「シフトダウンを待つ時間があり、車との対話感が薄い」という声が見られます。そのため、ティプトロは「速く走るためのミッションというより、気持ちよく流すためのミッション」という評価が目立ちます。

一方でPDKについては、「初めて乗った時に驚いた」「まるで車が先回りして考えているようだ」という感想が非常に多く見られます。アクセル操作に対する反応が鋭く、追い越しやコーナー立ち上がりで即座に適切なギアを選ぶため、「車が軽くなったように感じる」「実際の馬力差以上に速く感じる」と評価されています。また、変速時に駆動力が途切れないため、「エンジンとタイヤが直結している感覚がある」「スポーツカーらしさが一気に増した」という意見も多くあります。

興味深いのは、後期PDKに乗り換えたオーナーの多くが、「後期を買った価値の半分はPDKにある」と語っていることです。一方で、「低速時は少しギクシャクする」「駐車場ではティプトロの方が自然」という意見もあり、快適性だけなら必ずしもPDKが圧勝ではありません。

総合すると、オーナーたちはティプトロを「上質なGTカー向けのAT」、PDKを「スポーツカーのためのミッション」と捉えています。そして987後期2.9PDKは、「自然吸気エンジンと油圧ステアリングのアナログな魅力を残しながら、変速性能だけは現代レベル」という点が高く評価されており、前期から後期へ乗り換えた人ほどその進化を強く実感しているようです。

私自身、PDKを試乗した時、初めてフォルクスワーゲンのDSGに乗った時と同じ感動を覚えました。20年ほど前、当時湿式DSG6速で、実に細やかに、スピーディーにシフトチェンジが行われ、変速ショックも一切感じられないDSGの凄さに感動し、虜になりました。今回のPDKも同様ですが、より踏み込んだ時の引っ張る感じ、エンジン特性を活かして高回転をふんだんに使う設定が、低回転で最大トルクを発生させるフォルクスワーゲンのエンジンに合わせたDSGと大きく異なる印象です。

ボクスターという特性上、高回転まで満遍なく回す設定のPDKは最高の組み合わせだと思います。皆さんも機会があればオープンカーに挑戦して、直にエンジン音をを聞いてみてください。病みつきになると思います。

見た目は小さな変化でも、中身は大きく変わっている987ボクスターですが、ご自身が車に求めるものを整理して、是非満足度の高いカーライフをお過ごしください。

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